国際交流助成受領者/国際会議参加レポート

平成28年度 国際交流助成受領者による国際会議参加レポート

受領・参加者名
木村 謙斗
(東京農工大学 生物システム応用科学府)
会議名
The 15th International Symposium on Polymer Electrolytes (ISPE-XV)
期日
2016年8月15日~19日
開催地
ウプサラ(スウェーデン)

1. 国際会議の概要

会場の様子

International Symposium on Polymer Electrolytes (ISPE)は、高分子電解質に関する基礎研究や新材料の開発に特化した議論の場として開催されている学会です。高分子電解質は、二次電池、キャパシター、燃料電池、太陽電池などをはじめとする電気エネルギー貯蔵・発電デバイスに関わる技術分野の発展に欠かせない材料と言えます。本学会は1987年の第1回大会より2年毎に開催されており、第15回目を迎える今回は、スウェーデンのUppsala UniversityとChalmers University of Technologyの共同主催により、ウプサラ市内のコンサートホールにて行われました。今回の参加者は100人程で、一会場でのplenary、 keynote、およびinvitedなどの講演、並びに学生などによるポスターセッションの形式で行われました。比較的少人数で行われる会議ではありますが、その分高分子電解質の基礎物性解析や新規材料の開拓などに関し非常に専門性の高い議論が行われる他、近年では急速に発展するイオン液体分野の最新研究だけでなく、アクチュエータの開発やバイオテクノロジーなどの成果発表にも裾野を広げています。また今回の大会で、2年後の次回は日本にて開催されることも発表されました。

2. 研究テーマと討論内容

今回の学会では、“Effect of solvation structure on electrochemical performance of carbonate-based solid polymer electrolytes”という題目でポスター発表を行いました。

極性高分子と金属塩の複合体である固体高分子電解質は、安全で加工性に優れる次世代のイオン伝導材料として、特にLi二次電池用電解質としての応用が期待されています。ポリエーテルとLi塩から成る電解質に関する研究が一般的ですが、塩濃度増加に伴うイオン伝導度低下や極めて低いLiイオン輸率(正負両イオンのうちのLiイオンが伝導度に寄与する割合)が課題となっています。これらの問題点を解決するため、本研究ではCO2/エポキシド共重合により合成されるポリエチレンカーボネート(PEC)をベースとする電解質の開発を行っています。PEC電解質は、高塩濃度領域での高イオン伝導度や、高Liイオン輸率などの一般的な系とは異なる優れた特性を発現することが、所属研究室の最近の研究により分かっています。しかし、そうした性質の由来はこれまで詳細には明らかになっていませんでした。

こうした背景のもと、PEC電解質中におけるイオン溶存状態と特異的なイオン伝導特性の相関を、FT-IR、ラマンスペクトル測定や固体NMRなど、分光学的手法を用いて詳細に解析して考察しました。その結果、PEC型電解質では特異的な塩の凝集状態が効率的なLiイオンの伝導につながり、高濃度領域での高イオン伝導度や高Liイオン輸率を発現することが示唆されました。一般的に高分子電解質の高性能化には塩が良く解離することが望ましいとされますが、本成果によってこれまで固体高分子電解質の研究において盲点となっていたイオンの溶存状態の違いによる性能改善の可能性が明らかとなり、基礎・応用研究の両面において当分野の研究の発展に多大に寄与すると期待されます。

3. 国際会議に出席した成果
(コミュニケーション・国際交流・感想)

ウプサラ市内の街並み

本学会は自身が研究を行っている高分子電解質に特化した小規模な学会であり、自身の発表した論文などを見てポスターを見に来てくださる方もおり、質問やコメントの内容が非常に具体的で直接現在の研究に参考になるものが多かったと感じました。また、個人的には2年前の前回大会に続き2回目の参加であり、前回に知り合った学生や研究者とも再会し、交流することができました。過去にはより多くの研究分野を含む大規模な学会にも参加したことがあり、そうした学会も様々な分野の最新の動向に触れることができるという意味で非常に良い経験であると感じました。一方で、今回のような学会も、上記のように具体的なディスカッションや他の参加者との今後も続いて行くような個人的な交流ができ、非常に有意義な時間であったと感じました。さらに、エクスカーションではノーベル賞の授賞式が行われることで有名なスウェーデンの首都ストックホルムへ行き、ノーベル賞博物館の見学も行うことができました。丸文財団に渡航のご支援をいただきこのような学会に参加できましたことを深く感謝しております。

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